フォーサイスカンパニーでの一週間のワークショップ日記

 

3-16

「私も孤独だったが、今はそうじゃない。日野さんという唯一の遊び相手が見つかったから」
フォーサイスが、 Workshop 終了後しみじみと話してくれた。

武禅で行う肩動かしから始まった最後の Workshop 。
昨日は、明日は今までの復讐をするから、と言っていたが、スタジオの雰囲気がそうはさせなかった。
アイコンタクトからの意識の切り替え等、完全に武禅だし武道だ。
しかし、ダンスだ。

いみじくも押切さんが
「まるで東京セミナーと同じですね」
と言った。
そう、私が不思議に感じていたのはそのことだ。
ここはフランクフルトで、しかも多国籍のダンサーたちの集りのはずだ。
にもかかわらず日本と同じことが、しかも非常に質が高く行われている。
「日野さんが来たことで、ダンサー全員の人生が変わった、本当に感謝しています」
とフォーサイス。
社交辞令で誰でも言うだろうこの言葉。
しかし、それは事実ダンサーたちの目が、そしてカンパニーのまとまりが変わったのを、この一週間で体感した。

丁度この日はダナの誕生日だった。
近くのオープンカフェでドリンクだけのパーティが開かれた。
その席で、この夏、日本で安藤さんと私と出行う予定のWorkshop。
もしも、予算が足りないのなら私がお金を出すから、絶対に成功させよう。
「ここでお金を使わなければいつ使うの」と24歳のマーツが安藤さんに言ったそうだ。

Workshopの締めくくりに私の「形」をプレゼントした。
形を終えた時の静寂と緊張。
何事にも代え難い静寂だった。

20代の若きダンサーたちとラーメン屋で人生を哲学を、芸術を語った。
「what is this」
口々に
「コップ」と答える、その名前を決めたのは誰だ?
皆が沈黙し互いに目で頷き合う。
シリルは泣きそうな顔で
「ありがとう」
と私に。
もう一つ突っ込んで、
「正しいか、悪いことか、誰が決めたのだ?」
もっと深い沈黙がラーメン屋の騒音をかき消した。
皆私の目を見てフリーズし、その後本当に安堵の表情に変わった。
ここには、言葉はいらない。

Workshopの最後に
「私は57年間生きてきている。しかし私は何を目的として生きてきたのかを知らなかったが、ここフランクフルトに来て、そしてフォーサイスに出会って、はっきりした。この時間を、そして、皆と出会う為だったと」
安藤さんが声を詰まらせて通訳がとぎれた。
その安藤さんを見るフォーサイスの何とも言えない大きな笑顔が、カンパニーとそしてむろんフォーサイスとの深い関係を改めて私に見せてくれた。

安藤さん、本当にありがとう。
「ありがとうございました」

3-17

かなり前、モーリス・ベジャール振り付けで、ジョルジュ・ドンの「若きダンサーへの手紙」を見た。
気がついたら、私がまさしくそれではないか。
あのダナのダンスに駄目出しをし、若いダンサーに見本を見せ、NNNNを踊っているダンサーに
「予定調和はおもしろくないから、もっと裏切れ」
等とアドバイスを行っている。
武道家がだ。

今回のWorkshopを通じて、武道の汎用性の広さに自分でも驚いた。
というよりも、武道として追求していた事が、何一つ間違っていなかった。
つまり、武道という身体運動の追求が、無限の汎用性を持っていたのだ。
しかし、今日は全くスタジオの雰囲気が違う。
あまりの集中に疲れたのか、私が明日本当に帰ることに気づき沈んでいるのか。
フォーサイスは、私との別れをしってか何度もデュオを求めてくる。
目まぐるしく早いパフォーマンスが何度も続いた。
何度宙を舞った事か。

この貴重な時間は終わるから寂しいし楽しい。
出会いは別れが待っている。
そのチャンスを逃がす人たちは、ダンサーの中にもいる。
「鎧の中」のダンサーだ。
こんな世界のトップレベルのダンサーの中にも鎧の中に入っている人は入るのだ。
それを百も承知し、それをどうにかしたい、という意志を持っているのに、鎧から出て来れない人たちだ。

明日13時20分フランクフルトを発つ。
今回の体験は、ダンサーたちにも話したのだが、どれをとっても言葉にしたくなかった。
もしも言葉にすれば全部嘘になってしまうからだ。
体験している事は、何一つ言葉にすることはできない。
それは相互に感じている、つまり、コンタクトとがコミュニケーションそのものだからだ。
最後に皆がお金を出し合ってチョコレートをくれた。

3-18

安藤さんがフランクフルト空港まで見送ってくれた。
この10日間はどんな時間だったのか、それは三ヶ月四ヶ月後にお互いに分かるだろうから、今は考えない方が良いよ、と別れた。
もちろん、次の日本でのワークショップの準備をしなければならないから、このフランクフルトの出来事を切り離すことは出来ない。
昨晩、スペインの連中と最後の食事会をした。
アランシオがルフトハンザ航空に知り合いがいるから、私のチケットをビジネスクラスにアップグレード出来るかもしれない、とその場で電話を入れてくれた。
もちろん、それはなればよい、という程度のものだ。
しかし、空港にチェックインして驚いた。
何と押切さんと二人分がビジネスクラスでチェックインされていたのだ。
本当に有り難い事だ。
おかげで、帰路はゆったり、ぐっすり眠ることが出来た。
その事を、私を見送りリハーサルに戻りアランシオに報告した。
アランシオがその事を皆に告げると、全員が喜んでくれたそうだ。
その食事会で、ヨネが本当に日野さんはこのフランクフルトでの事をどう思っているのだ?と質問した。
それは、最後のスピーチで言ったように初めての体験だと、つまり、私は57年間色々なことをして、また、色々な人と関わってきたが、こんな短時間でしかも密度の濃い関わりは初めてだと答えた。
そして、もちろん、色々な言葉があるから表現することは出来るだろうが、もしも言葉に出せば全部嘘になるから出さないんだとも。
アランシオも、アンダーも、ヨネもその通りだと、ただ黙って私と目を合わせ、沈黙の会話を交わした。ただ抱き合い、手を握り、それで充分だった。

こうなると、7月のワークショップが本当に楽しみだ。
若手のバリバリのダンサー達も是非参加したいといっている。もしかしたらフォーサイス自身も。
彼も俺も仲間に入れてくれ、という雰囲気の話をしていたから。

 

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