2007-6 ・ 25
2005 年 3 月に初めて William Forsythe に招かれ Forsythe  Companyで Work shop を開いた。それから、毎年招かれ今年で 3 年目を向かえた。 
一年目は、ダンサー達もフォーサイスも、聞きなれない私の話、つまり、日本の武道という考え方に目を白黒させていた。しかし、同時にそこで見せる私の動きから、自分達とは全く質の違うものを感じ取った。私の提示する理論や動きは、彼らにとって衝撃的であり、かつ新鮮だった。
二年目になると、理論の真髄に迫ろうとダンサー達は、徹底的に食いついてきた。

今年は三年目。
果たしてどんな反応なのか?不安と期待で関空を後にした。
まずは、日記から。

フランクフルト空港

■ 6 月 25 日月曜日

定刻より早くフランクフルト空港に着陸した。
荷物を受け取りにボードを頼りに行くと、そこは出国手続きの場所だった。
「えっ何で?」と思ったのだが、係官が「コンニチハ」と言うので思わずパスポートを見せ、出国してしまった。
バッグはどこ?何かシステムが変わってしまっている。
昨年とは完全に違う。
心細くなりながらも、そのまま進むと次は、バッグの中身をチェックするところだ。
ええ〜??
バッグは持っていないので、バッグはどこで受け取るのか?と聞いた。
すると、まだ先だという。ええ〜どうなってんねん。
もう出国してしまっているのに。
仕方なく歩き階段を下りると、そこは見覚えのある荷物受け取りフロアーだった。
ようやくバッグを受け取り外に。
アンデルが手を振っていると思ってドアを開けると、通訳をしてくれるマリコさんが手を振っていた。
彼女は成田からの便なので、少し早く付いていた。
やはり、システムが変わっていたのに戸惑ったそうだ。
英語が堪能な彼女ですら、戸惑うのだから我々が戸惑っても仕方が無い。
アンデルは車の渋滞で遅れたようだ。
空港の事をアンデルに聞くと、やはりシステムが変わったので戸惑ったそうだ。

バッグをホテルに置き、とりあえず再会を祝して乾杯を上げようと、安藤洋子さんの家の近くにあるベトナムレストランへ。
「アンデル、ワークショップのリクエストはあるか?」とたずねると、
「どれも難しく、何も出来ないので、リクエストは出来ない。ただ、今までの感覚は残っているから、そこから上に積み重ねるだけだ」と。
それなら「腕を繋ぐ」をやろう、と見本を少し見せた。
「面白い!」アンデルは本当に嬉しそうに笑っていた。
安藤さんも他のメンバーも、今日は深夜にフランクフルトに帰ってくるそうだ。
ドレスデンでの公演とギリシャ公演の間の貴重な時間が、私のワークショップで埋まってしまった。
しかし、それはカンパニーのダンサーたちが望んだことだそうだ。
明日は昼 12 時から始まる。
ドレスデンの後に日野を呼べと、言ったのはファブリーズだと言っていた。
きっと、ファブリーズは今夜寝られないのじゃないか、とアンデルは笑いながら。
それ位、待ち焦がれてくれているのは、本当に嬉しい。

「何もどうにも難しく、出来ない」ものを教えているが、何かがみんなの役に立っているということだろう。

■ 6 月 26 日火曜日
目が覚めたのは朝 5 時。それは騒音で目が覚めたのだ。
トラックの音がけたたましくなっていたからだ。
何と、部屋は道路に面しガラスとシャッター一枚だけで区切られているだけだ。
誰にも想像できないだろう。
道路側から見ると、ショーウインドーの向こうが部屋だった。
アホか!こんな部屋どこを探してもないぞ。
管理人のおばちゃんが、どうだ美しくしただろう、と自慢げに話していたが、いくらペンキで真っ白にしていても、車がガンガン通る道路に面したショーウインドーの中で寝られないだろう。
隣の八百屋だって一階の店では寝ていない筈だ。
部屋の中からシャッターを開けてみたら、道を歩いていたおっさんが驚いて中を見た。
そこは部屋というより外だった。

アホか!
ま、これも貴重な体験か。

スタジオに行く前、安藤さんとオペラ劇場の近くにある、角の喫茶店で待ち合わせた。
角の喫茶店は、インド料理の店に変わっていた。
1 年でここも様変わりしていた。
しかし、フランクフルトは寒い。
てっきり夏だと思っていたが、まだ冬だ。
コートを着たり、皮のジャケットを着ている人が沢山いる。
オープンカフェで、安藤さんとモーニングコーヒーを飲む。
「 1 年ぶりの気がしませんね、何だか 2 年前や昨年という時間を越えてずっと稽古をしているみたいですね」と安藤さん、本当に自分でも不思議な気がした。
もちろん、このカフェもフランクフルトと東京、また大阪という違いを感じない。
ただ、そこにいて稽古をしている、そのことだけに焦点が当たっている感じだ。
「みんな、本当に楽しみにしていますよ、ところで、今日は何を稽古するのですか」
笑いながら安藤さん。
何時も、このやりとりで始まる。
一応考えていることはあるが、みんなの雰囲気を見なければ分からない。
何をしたいかは、みんなが動きで教えてくれるからだ。

スタジオの定員 4 名の狭い狭いエレベーターに乗りスタジオへ。
ドアをのぞくと、バレエクラスのレッスンを終え、みんなは一息ついている様子だった。
「ハロー」私がドアを開けると、みんなが歓声を上げ迎えてくれた。
ヤニス、マーツ、シリル、何と 2 年前に出産のために辞めたハイジーもいた。
アマンシオ、ヨネ、フランチェスカ、ロベルタ、アンデル達が、変わる代わる抱きついてきた。
みんな元気だった?日野は?もちろん。
そうこうするうちにフォーサイスが入ってきた。
4 月ぶりの再会を祝った。
新しい人は 3 人いた。
今回も何故か通訳のマリコさんが良く知る人が二人いた。
外部のカンパニーのダンサー達だ。
「では何時ものように『ねじれ』の復習からしよう」
私のワークを初めて受ける、ダグラスやクリスは目を白黒。
もちろん、彼らも一流のダンサーだし、特にクリスはこういったねじれ系のような動きを良く使うので、直ぐに動きは出来る。
私がクリスの腕を持ち、ねじれの解放をさせていく。
「ノー」
連発にさすがにクリスはしょげてしまった。
「あっ、もう 6 時前や、終わりやで」
「ノ〜」
ブーイングだ。
この反応は、初めてのものだ。
外国人は仕事は仕事、休みは休み、きちんと区切りを付ける。
もちろん、ダンサー達とて例外ではない。
過去 2 年のうち、一度や二度はブーイングがあったが、初日からは初めてだ。

フランクフルト中央駅
フォーサイスと再会
WS始まる
演出
フォーサイスカンパニー リハーサルコネクト

■ 6 月 27 日水曜日
スタジオに入るとマーツが寄ってきた。
マーツは 7 月でカンパニーを辞めるという。
植物などの勉強をしたいそうだ。
もちろん、ダンスは続けるが、 1 年は自由になりたいそうだ。
そりゃそうだろう。
子供の頃からダンス一筋で、しかもその優等生なのだから息抜きもしたくなるはずだ。
来年の夏には日本に来るという。
それなら、それに合わせて何か考えるから、というと、笑顔が零れ落ちた。

「じゃあ、今日は意識を使う遊びからしよう」
相手の意識を誘導することで、寝ている相手を起き上がらせてしまう、という介護の人の為に考えた技術をみんなで楽しんだ。
一区切りついたところで、昨日の続きだ。
「今日は、昨日のねじれで、持っている人がねじれを解放させてくる意識を感じ、それを誘導しバランスを崩す、ということをしよう」といって見本を見せた。
やはり真っ先に私にトライしてくるのはフォーサイスだ。
フォーサイスが
「昨日の稽古の 10 分の 1 でも膨大な情報が有りすぎて消化できないくらいだ。本当に感謝している」
と、私を抱き寄せる。

次のトレーニングは、マーツのリクエストで、背骨を順に感じるをした。
骨盤から尾てい骨、背骨を一つずつ辿り、「胸骨」の真裏に来たときに、胸骨を前に動かし最後の部分を頚椎まで辿る。
ここの一番難しいのは、最初の骨盤から腰椎に入るところだ。
ふと視線を感じたので、その方向を見るとダンサーではない男性が私を見ていた。
みんなとは親しげに会話をしている。
あまり気にも留めなかったが、マーツと話をしながら私を見ていた。
マーツが私を呼び、彼を紹介した。
彼はフォーサイスカンパニーの専属のドクターだそうだ。
以前から、ダンサー達に私の身体の理論を聞き、非常に興味を持っていたが、時間が取れなくて参加できなかったという。
今日も 15 分だけ時間が空いたので、駆けつけたそうだ。
身体を繋げる、ということでサンプルとして、腕相撲をした。
ドクターは腕力も強く、一たまりもなく私は倒された。
そこで、反対側の肩から握っている手までを繋げ、もう一度勝負をした。
今度は私が勝った。
ドクターは、「????」だが、嬉しそうにニコニコしていた。
「次は必ず、ワークショップに参加する」
約束をして彼は出て行った。

■ 6 月 28 日
毎日天候は雨の降りそうな日が続いている。
今日も雨雲が垂れ込め、いつ降ってもおかしくない天候だ。
昨日ワークショップが終わった時、ファブリーズとヤニスが相談があると寄ってきた。
カンパニーのギリシャ公演の後、彼ら二人の作品の公演があるという。
1 時間の作品だそうだ。
相談というのは、アイディアを具体化するにはどうすればよいか、のアドバイスが欲しいとのことだ。
アイディアを聞き、動きを見た。
「で、何がしたい?」
つまり、彼らのギャップは、イメージやアイディアを具体化する際、観客からどう見えているのか、を無視している点だ。
まさに「全ては間違っていた」だ。
「観客からそう見えなければ意味が無いのだろう」
「そうだ」
と、そこのコンセンサスを得たので、動きに対して、動いて見せた。
「そうだそうだ、そう見せたいのだ」
二人は飛び上がって喜んだ。
ヤニスが「クレジットに日野の名前を入れるから」と大はしゃぎだ。
そこから、演出が始まった。
二人の様々な動きを見て、「どう見えたいのか」を聞き、であれば、というところで動きを見せる。
「明日も見てくれないか」
彼らは、私が武道家だとは思っていないように思えてくる。
通訳のマリコさんは、
「全く武道家だとは思っていませんよ、振付家だと思っています」
と大笑い。

ワークショップは刀を構えての正面向かい合い、そして意識のコネクトを見せて欲しいというリクエストから始まった。
まず一人と向かい合い、その数を増やしていった。
つまり、刀の多人数がけだ。
ダンサーたちが加わり行った。
「みんなこれをやりたいのか?」
「ノー、出来ないよ!!」
では、ということで、ねじれからの逆技なのだが、それを動きではなく、意識の流れとして捉える、ということを指示した。
今日の稽古はフォーサイスがいない。
ということは静かで集中された時間を持てるということだ。
瞬く間に 2 時。
昼食を 1 時間早めた。
「腹が減ったから食事やで!」
と終わっても、みんなは終わらない。
二人で試行錯誤している。
「食事の時間がなくなるで」
ブーイングの中、食事に散会した。

私たちは遅いモーニングを食べているので、あまりお腹は減った気がしない。
パンを一個くらいで十分だ。
パンを置いてあるカフェを探し入る。
お腹の事もあるが、何しろ物価が高い。
外食をすると、 1 日 5000 円くらいの出費がある。

■ 6 月 29 日
「よっしゃー、ほんなら復習からしようか」稽古は始まった。
稽古が始まると、みんなは生き生きと「ノー」を連発する。これには驚いた。
昨年もある程度否定は浸透していたが、ここまでハッキリと口にすることは無かった。
みんなは何かを掴んだということを確信した。
また、取り組み方を掴んだということもある。
「出来る・出来ない」というレベルではなく、「自分を知る」ということ、「自分の身体を知る」という実際を掴んだのだ。
であれば、このレベルの稽古は止めよう。
「もっと身体の深い部分の線を感じよう、上っ面の筋肉の動きは駄目だよ」アンデルとシリルの二人に片腕をねじらせ、ねじれの終点である、足の足刀部からねじれを辿る、日野理論の定番だ。
しかし、それを身体外部をさほど動かさず、内部を動かすことで同じ現象が起こるのを見せた。
これには、初めて私の動きを見たときのように、呆然とし、スタジオはフリーズした。
フォーサイスは、
「もっとゆっくりやって見せて下さい」
と。
私は丁寧に内部の線を辿っていく。
みんな私の身体を食い入るように見つめ、お互いに目を見合わせあい、フリーズする。
その後大拍手!!
私の手を掴んでいたファブリーズは「足から腰、肩までエネルギーが動いてきているとき、内部もさほど分からないのだが、肩から手首に伝わるときは、内部が徐々に膨れ上がり、いきなり倒れてしまう」と感じたことを説明。
一同無言で聞く。
「よっしゃぁ、トライ!」
フォーサイスが手を掴んでくれというので、私が補助をする。
「もっと意識を使わなければ」
というと、
「これは複雑で高度すぎだ。ダンサー達には絶対に出来ない!」
とフォーサイス。

スタジオの雰囲気が違う。
自分の身体を諦めない。
「出来ない」ということで、諦める人は昨年迄いたが、今年はいない。
つまり、彼らは進化しているということだ。
「出来ない」ということを知ってしまったのだ。
だから、出来るようになってやるに繋がったのだ。
ダンサー達共通の「緩む」が、繋げていくということにとって、最大の敵だと分かってきた。
マーツもヨネもその例外ではない。
しかし、途中で胸骨から肩にかけてのエネルギーの圧縮を感じられるようになった。
目を丸くし興奮し「掴んだ!」と。
ヨネの腕を掴み、捩じれをしたときに驚いた。
カンパニーで一番関節の稼動領域が広く、いわゆるグニャグニャの動きの達人が、なんと肩関節に緊張を作り緩まないようにしているのだ!
「凄い!」
自分自身にチャレンジしているその姿には感動した。
あっという間に 3 時間がたった。
久しぶりという感じはまったくしない。

最初に感じたように、まるで日本だしまるで日本人と稽古をしているようだ。
そこの密度が以前よりも増していた。

「立ってばかりだと疲れるから座ってやろう」ねじれのバリエーションを座ってやることにした。
実は私自身の足首のダメージから、相当疲れがたまってきていたからだ。
手を自分でねじり、床に付いた手の甲を、誰かが足で踏む。
それをねじれを解放させることで、逃れるという稽古で、ねじれが胴体からの繋がりであれば、逃れることができる。
つまり、ねじれ自身の検証だ。
フォーサイスはこの稽古がことのほか気に入ったようだ。
「日野さん、このトレーニングは素晴らしい」
を連発していた。
少し疲れたので時計を見ると、すでに 6 時前だ。
5 時 30 分までの予定だったので、「終わりや!」と一声。
みんなは「エエ〜」とブーイング。
本当に稽古をしたいようだった。
「明日があるやろ、明日が」と。
全員正座「ありがとうございました!」こんなに楽しい時間を終わらせたくない、とみんなが感じているのを、肌で感じる。
彼らと 1 年ぶりに身体を動かし、私の身体も喜んでいた。
彼らの繊細な感覚が、以前にもまして繊細になっているので、私はそれ以上に繊細でなければならない。
その高度な欲求に、身体が喜んでいるのだ。
その喜びは、新たな展開を生んでいく。
ファブリーズが「毎回新しい稽古だから頭が混乱する」と。「もっと混乱させ、使えなくしてしまえ」と私。
ねじれを様々な角度から行うと、フォーサイスはより真剣なまなざしになる。
「もう一度」「もう一度」とリクエストしてくる。
ねじれを使った動きを即興的にすると、真似をしようと何度もトライしてくる。
彼のリードで動かされる。
フォーサイスが私に触れている指を少し動かすだけで、それに反応して私の全身は動き出す。
その反応がことのほか気に入っている。
その内、二人はプロレスもどきの動きに突入するのが、毎度のパターンだ。
ダンサー達はそれを見て、「またか」と。

■6 月 29 日土曜日
ファブリーズとヤニスのデュオのアイディアは本当に面白い。
しかし、角度を変えてみると臭い芝居を見ているようだ。
それも仕方が無い。
彼らは「西洋的ダンス」をすることに飽きてしまっているので、全く異なった事を探す。
もちろん、フォーサイスも同じだ。
その過程の中だからだ。
小さい子供の頃から、クラシックバレエをし 10 代では奨学金を得てバレエ学校に。
そしてヨーロッパの一流のカンパニーでずっと仕事をして来た、いわゆるエリート達だからだ。
そういった意味で、私の提示する武道の動き、考え方に興味を惹かれるのだろう。
一流のダンサーであるにもかかわらず、「出来ない動き」があった、ということにも興味を惹かれ、また、カウントで捉えられない動き、相手と同調してしまう動きに驚嘆せざるを得ないのだ。
そしてまた、「 body 」という概念を覆し「自分自身」という、ごく当たり前の概念を提示しているのも新鮮なのだ。
みんな一様に「頭が間違っている」を理解してきた。
身体は自分から見て一番身近な「自然物」だ。
ということすら分かっていなかったのだから。
というよりも、そうは考えることが出来ないくらい、宗教観が強いのだろう。
つまり、宗教によって思想や思考を限定されているということだ。
もちろん、宗教や民族の伝統、それぞれの意識が間違っているのではないが、「人」はおよそ 60 兆の細胞、骨格、その他精神的なものもの含めて、成り立っているという共通項を持つ自然物なのだ。
その自然物を、自然物として扱うという考え方、それが大きくいえば日本的思考であり、武道というものの思考だ。
だから、カンパニーのダンサーたちのように、国境を越えた人たち、対立関係にある人達でも「武道」の前では平等になるのだ。
そういった意味から考えると、一昨日フォーサイスが私に「日野への全てのオファーを断っている」と言っていたように、アマチュアのダンサーにとっては、難しすぎるテーマなのだろう。

■ 2007/06/30
今日の夜は安藤洋子さんが、食事に招待してくれているので、夜は味噌汁が飲める。
食事を終えスタジオに入ると、マーツが二人で「突合」を行っていた。
それに興味があるんだ。
じゃあ、それをしよう。
相互の力のバランスがあり、それをキープしたままで、身体全体の方向を変える。
それだけで、人は倒れるというものだ。
みんながある程度出来ることを確認し、そこから展開していく。
全員集中してくると、スタジオの空気密度が変わる。
その集中に影響され、眠くなってくる。
「 5 分休憩しよう」誰かがスタジオの換気扇を回した。
重たく熱い空気が流れ気分が変わった。
「腕を繋ぐ」から、その変化に。

ギリシャから女性が見学に来ていた。
ワークショップの噂を聞いてギリシャから来たそうだ。
よければ体験させて欲しい、というので「突合」を体験させた。
「どうして?」という顔が面白い。
また、 6 時前になってしまった。
とにかく終わらない。

全員で正座をし、「ありがとうございました」は完全に定着しているので、ぞうさなく全員がする。
終わった後の方が疲れる。
ファブリーズたちの作品を面白いものにするために、動きで見せなければならないからだ。
「一寸待て、俺は 60 前だぞ」と言いたくなるような、難しい動きを要求してくる。
汗をかきながら、演出を続けた。

「思っていることが、そして、思ったことをやっていると思っていることは観客には見えないんだよ」表現の基本中の基本を話す。

■ 2007/07/02 ( 月 ) 土曜日2
アマンシオの誕生日パーティが、彼の手作りの新築の家で行われた。
カンパニーでは、アンデルやアマンシオ、等、話しなれた人たちとの会話が多い。
パーティでは、若いリーツやフランスからわざわざ今回のワークショップだけのためにフランクフルトに来たマイとも色々と話が出来た。
マイは、バレエの学校で私に習った武道の授業を持ったそうだ。
この辺りのスピード感が外国だ。
そういえば、先日のドレスデンでのカンパニーの公演の時、前回参加したエイミーがワークショップのことを知らなくて予定を入れてしまっていたと、相当悔しがっていたし、前回のことを思い出し涙を見せていたそうだ。
マイにしろリーツにしろ、私の考え方が非常に新鮮で、全部ストレートで中に入ってきたという。
しかし、日常とのギャップで毎日戸惑っているが、完全に自分の人生は変わった、と口を揃えていってくれていた。
リーツは、ハーバード大の物理専攻の変り種だけに、前回まではやたらと言葉で答えを求めて来ていたが、今回は一言もそういう質問はしなかったし、身体に聞きながら工夫する姿が見られた。
ハイジは結婚後出産しカンパニーを辞めたので、昨年のワークショップにはいなかった。
しかし、今回はどうしても受けたいと出席していた。
彼女も自分の頭が迷走し、行動が決まらなかった自分に気付き、それを自覚することで人生が変わったと礼を言ってくれた。

丁度ハイジの 11 ヶ月の赤ちゃんを連れて来ていたので、その赤ちゃんにどうして目が行くのか、から表現ということについての話からワークショップを始めた。
それは目的が明確でそれを遂行するためだけの動きをしているからだ。
しかも、その目的は好奇心から発生している。
そして、その好奇心は本能、つまり、自分自身の生命の生存そのものからのものだ。
つまり、生命体としての働きそのものだから、エネルギーが見たさせれており、だから、そこに無意識的に興味がいき、見てしまう、という分析を話した。
興味が向くということは、そこに多様なイメージを持つことが出来るということで、そこが、全てのパフォーマンスを考える上での原点だ。
つまり、観客が多様なイメージをできるというところが大切なのだ。という話の流れだ。
レッスンは腕振りの流れを捕らえる、からはじめ、それは意識の流れだから実は意識を捉えているのだ、という高度なものを展開していった。
今回から初めて参加した、クリスやダグラスの顔にも笑みがこぼれだした。
二つの意識を同時に使う、というもので、相当難しいが実際にそれに取り組んでいる時、みんなの身体は静かになる。
もちろん頭も。

■ 2007/07/03
「日野、来年のワークショップの日程を決めておこう」ダンサーたちが言い寄って来る。
カンパニーのダンサー達は年々進化していっている。
「昨年までは、私たちがまだ引いていたような気がするが、今年は全員が全く違う。 全員が一つに溶け合っているように感じ、みんなと稽古をしていて本当に楽しい」
とファブリーズ。
「日野のワークショップで、カンパニーが一つにまとまるのが良く分かる」とヤニス。
「明日はモロッコ料理を食べに行こう、日野は食べたことがあるか?」
「いや、全く知らないよ」
明日の夜はフォーサイスが招待してくれることになった。

12 時リハーサルが始まった。
昨日よりも動きが良い。
腰を痛めたフランチェスカを抜いたメンバーでの稽古だから難しい。
終わってからフォーサイスが
「日野さん、みんなに何か話をしてくれないか」
と言うので、フォーサイスの意図することを具体的に表現として、行うための方法を話した。
静か、時間が止まる、突然動く、これらを観客がそう見えるようにするには。
もちろん、それは言葉なので捕らえ違いも出る。
それを排除するために、作品の一つのパートをやって見せた。
アンデルとヤニス、日本の島地君のパートだ。
ヤニスの役と島地君の役をやって見せた。
一同ため息。
フォーサイスが「日野さんは、ダンシングパートナーだ、ずっと傍にいてくれ」と。
ここでも重要なことは、意識を切り替えることであって、動きを変えることではないと説明した。
もちろん、身体の動かない人は論外だが、みんなは一流のダンサーなのだから、動きの問題ではない。
その動きを作り出している意識の問題なのだと。
そこをパートを使って少し練習をした。

時間はどんどん進む。
ワークショップは今日で終わりだ。
そういった意識の切り替えも含め「正面向かい合い」を前半のレッスンにした。
しかし、始めてまもなく昼食だ。
後半、
「これで今年のワークショップは最後だから、何かリクエストはあるか?」
と聞くと、基本的な「ねじれ」をリクエストしてきた。
胴体のねじれ、肩からのねじれ、あっという間に 5 時だ。
今日は、スタジオ全体が 6 時になれば閉まってしまうので、その予定で終わらなければならない。
最後に、刀の型や、刀の実際を見せ、実はこれらは全部意識の触れ合いだと説明。
大きな拍手でワークショップは終わった。

フォーサイスがシャンペンを 2 本用意してくれていたので、それでワークショップの終了をみんなで乾杯した。
ワークショップの後半は、イタリアからも他のカンパニーのダンサーが参加していた。
モロッコレストランで、フォーサイスから
「日野さん 1 年に 1 回のワークショップは少ない、せめて 2 回来られませんか」
と嬉しい打診を受けた。
「武道のワークショップは、学びたいというものではなく、学ばなければならないものだからだ」とも。

フォーサイスカンパニーという形になり、その当初から関わっているだけに、ダンサーたちとの関係も深くなっている。
そんなことも、作品に影響しているのをフォーサイスも分かっているのだ。
お腹の皮がよじれるくらい笑わせてくれたフォーサイスとの食事。
店内に流れる音楽に合わせ、架空の物語をクラシックバレエ風の身振り手振りを交え、作り出していく。 抱腹絶倒!
このイメージ力が作品創造のキーワードだと、改めてフォーサイスの基礎能力の高さに感服した。

午後 10 時。
「明日はギリシャだ。素晴らしく美しいところだぞ」とフォーサイス。
明日のフライトの準備があるからと、みんなでレストランを後にした。
フランクフルトの温度はきっと 20 ℃を切っている。雨は日本の梅雨くらいは降っている。
明日の夕方には温度が 35 ℃以上のギリシャだ。体調を崩さなければ良いが。

 

■ 2007/07/08 ( 日 ) アテネに戻る

フランクフルトからギリシャへ。
この飛行機の揺れたこと。
どこを飛んでいるんや?というくらい、オフロードの道を飛ばしている感じだ。
エアーポケットもふんだんにあり、機内は悲鳴が響いた。
無事着陸すると、自然と機内に拍手拍手!
ロビーで一服していると、フォーサイスが降りてきた。
「日野、あの揺れの場合身体はどうしていた?」
「シートに身体を預け、揺れるに任せていたよ」
「やはりそうか、私もそうしていた、いい稽古が出来たよ!」

アテネで一泊。
カンパニーがダンサーたちと同じホテルを調達してくれていた。
何と5ツ星だ。
しかし、どこが5ツ星なんや?立て付けが悪いし、エレベーターもドアが閉まっても外のコンクリートが見えているやんけ。
きっと、 5 ツ星というのはロゴやろ。
ヤニスやファブリーズ達に、アクロポリス周辺にあるギリシャ料理のおいしい店に連れて行ってもらった。

あくる日は、朝 6 時に起きてセルフォス島へ。
高速フェリーで 2 時間 30 分。
そこはまるで別天地だった。
エーゲ海のグリーンで透明度満点の海。
険しい山に建つ白い壁の家は、映画の1シーンのようだ。
ヤニスの友人がフェリーを降りて乗ったバスの、バス停まで迎えに来てくれて、そのままホテルへ。
レンタカーを借りなければ移動は無理。
とにかく暑い。
カラッとした暑さが痛さに変わる。
島に発つ時、フォーサイスが「公演などどうでもいいから、とにかくゆっくり休養をとってください」と。島の 1 日目は、 3 時まで昼寝。
レンタカーを借りて早速泳ぎに。
昨日までの時間とまるで違う時間になった。
「こんな時間が有ってもいいか」
という感じだが、 3 日が限度だろうとその時に思った。
案の定、 3 日目の帰る日、
「これ以上いたら、脳が溶けて頭が回転しなくなる」
と感じていた。
本当に我々は貧乏性だ。
何もしないことがストレスになるのだから。
しかし、物価の高さには驚かされた。
どんなものでも日本の倍も 3 倍以上もする。
ユーロが強いから仕方がないとも言えるが、観光地特有のボッタクリだ。
明日は、公演を観る。

今、フェリフォス島から、アテネのホテルに戻ったところだ。
夜 11 時 20 分頃アテネの港に船は着いた。
タクシーを拾ってホテルへ直行。
玄関前で、リーツと会う。
公演の切符はもうすでに完売で、客は物凄くエキサイティングだそうだ。
玄関を入ると、入り口にあるレストランで、フォーサイスとディナが食事をしていた。
今しがた公演が終わったばかりだそうだ。
ディナは勉強をしにアメリカに行っていたので、ワークショップには顔を出せなかった。
それを非常に残念がっていた。

■ 2007/07/09 ( 月 )
6 時 30 分、ダンサー達全員を乗せたバスはホールへ。
カンパニーが移動をするのは、横から見ていて本当に大変だと思う。
スタッフを含め総勢 35 名が移動するのだから。
約 20 分ほどで会場へ。
会場は使われていない工場を改修したもので、普通の劇場ではない。
コンテンポラリーダンスの立場を明確にしたものでもある。
しかし中に入ると、冷房がきき快適な空間になっていた。
開演は 9 時 30 分。
それまでウオームアップ。
クラシックバレエのクラスが行われ、参加したい人だけが汗を流す。
安藤さんやアンデル、アマンシオなどは参加せず、勝手に身体をほぐしていく。
クラスは 30 分前に終わり、全員汗を流す。
全員の緊張感が客席側にも伝わってくる。
フォーサイスが入ってきて、全員で正面向かい合いを始め、コネクトを確認しあう。
それが終わると軽く通し稽古。
フォーサイスが私の横に座り、昨日の駄目だしを行う。
作品は「アトモ」の三部作だ。
1 部は埼玉で観たもの。
2 , 3 部は初めてだ。

アクロポリスを見上げるレストランで作品の打ち上げだ。
まるでディレクターになったような、何故か閉めの言葉は私に。
テーブルではヤニスのお母さんから、今日の作品を見て「武道」を取り入れた意味が分かったと、興奮気味に私に話してくれた。
お母さんはギリシャにバレエを持ち込んだ人だ。
一人一人のダンサーが、というものではなく、全員が一つに繋がっており、そのことが作品のクオリティを上げているのを、肌で感じ鳥肌がたったと。
色々なカンパニーの色々な作品を観ていて気付くのは、古く感じるものと新しく感じるもの、そして今のもの、というように分けてしまえるのは何故だろう?というような質問を受けた。
例えば自動車でも新しく感じるものと、古いと感じるものがあるが、それは、物作りとして作ったものか、形だけを考えて作ったものかの違いで、形だけを追いかけたものは、どういう訳か瞬時に古く感じてしまう等々。
ダンスについて作品について、非常に有意義な時間を過ごした。
ステージが終わり、全員「この作品はやり慣れているものだが、今回は武道のワークショップの後なので、全く違ったものを舞台で感じた」と。
観ていて、まるで約束されたかのような、目まぐるしく行われる全員の停止場面。
動き回る場面。
静かでそれでいて迫力があった。
2 部のアマンシオ、ヨネ、ディビットの三人がおりなす舞台は、ダンサーが役者をしているのではなく、役者がダンスをしていると思えるほど、演劇そのものだったし、しかも立体的で緊迫感溢れていた。
公演終了。
観客は興奮していた。
満席の会場がカーテンコールを求める拍手。

明日は、フォーサイスの 20 年前の作品を、どこかのバレエカンパニーが公演するという。
この機会だからヤニスのお母さんと観にいくことになった。
それが終われば、フランクフルトに戻る。

■ 2007/07/10 ( 火 ) 最後の夜
カンパニーの面々と地下鉄に乗り、オペラ座というのか、アテネには不釣合いの大劇場に、ベルギーロイヤルフランダースバレエ団の公演を見に行った。
驚いたことに、ホール内で喫煙をしても良いことだ。
こんな立派なホールで?というくらい、これも不釣合いだった。
フォーサイスの 20 年前の作品(『インザミドルサムホワットエレヴェイテッド』)でもあるし、フランクフルトバレエ団当時、その作品を嫌というほど踊ったヨネやアンデル達の、感想を聞きたかったからだ。
作品は当時のバレエ界を驚かせただけあって、魅せてくれた。
また、そのバレエ団には日本人女性が多いのにも驚いた。
何でもプリンシパルは、斉藤亜紀さんという日本人女性だそうだ。
公演が終わり、ロイヤルバレエのダンサーたちとワインを交わした。
斉藤さんが私のところに寄ってきて、以前アントワープでフォーサイスカンパニーの公演を観たとき、アンデルと安藤さんのデュオのすさまじさに感動したという。
そして、恐ろしく高度なタイミングで動く二人を観て、何がどうなっているのか不思議で仕方なかったそうだ。
公演後楽屋でアンデルと話を聞くと、日本人の日野先生に武道を習っているから、ということで、それにも驚いたという。
「ドイツに住んでいるのですか?」
と聞かれたので、
「フォーサイスに招聘されドイツに来ているだけで、普段は日本です」
というと、日本に帰る機会が少ないが、日本に帰国したときは是非習いたいと話が弾んだ。
ヤニスのお母さん。
ギリシャにバレエを持ち込んだ人だが、会場で是非ギリシャでワークショップを開いて、その考え方を広めて欲しい、と嬉しい相談を受けた。
ギリシャの学校やカンパニーに声をかけるという。
公演後、カンパニーの面々と最後の食事。
ファブリーズが
「感じるということを、以前はイメージとごっちゃにしていたが、今は全く違うということが分かった。本当に感じていたら、それはもの凄い力だと分かった。しかし、自分が見本を先生のように示すことが出来ないのでまどろっこしい。武道を習っていることを誇りに思うから、情熱を持って人に話すが、伝えるのは難しい。しかし、カンパニーのダンサーたち全員が、どこででも日野先生のことを話すので、きっと全世界に広がると思う」
と涙が出るほど嬉しいことを言ってくれた。

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